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私が競艇を好きな理由はギャンブルだからということもありますが、『勝負事に生きる人間を見れるから』ということもあります。
これは、競馬と比較するとわかりやすいのですが、私は競馬にははまりませんでした。なぜなら、馬の気持ちがわからないから。どうも、人参を食べている生き物の気持ちがよくわからない。その点、競艇は人間がレースをおこなうので気持ちはなんとなくわかる。そんな理由から、「大事なお金を人参を食べてる生き物に賭けられるか」ということになります。

私は、『競艇マクール』という月刊ボートレース雑誌を定期購読してせっせと読み込んでいます。そこには選手の対談記事や若手の紹介などのレーサーの情報がてんこ盛りです。それらを長年読み続けてきて感じるのは、一流レーサーというのは考え方もしっかりしているということ。一流レーサーと二流どころだと言動も違ってくる。若手であっても、これから伸びてくるだろうレーサーは、一流レーサーと同じような言葉を使っている。そんな若手レーサーを発掘して、その選手がブレイクするところをみるのも楽しい。はたまた、ベテランにさしかかった選手が、やっとこさＳＧレース（グレードの一番高いレースです。賞金4000円くらい）を勝って涙する瞬間を見るときなども楽しい。舟券を当てればなおのこと嬉しいのですが、舟券が外れたとしても「いいもの見れた」と楽しめるのです。たとえば、車のＦ１レースが好きな人はギャンブルじゃないけれどもレース自体を楽しめるわけですよね。そのレースで誰が勝つのか、年間タイトルを誰が獲るのかなどという感じで。私にとっては競艇も同じようにレースを楽しんでいるわけです。

競艇には年末に『グランプリ』というレースがあり、年間の獲得賞金の上位18名が争って、最終的に勝った選手が１億円ゲットします。選手は皆このレースで勝つことを目指しています。そして、ＳＧのタイトルをいくつか獲った一流レーサーでも、このレースを勝ち切れなかったレーサーはたくさんいます。一流と超一流をわける何かがこのレースにあるような気がして、私には興味深いのです。
このレースに勝てなかった印象的な二人のレーサーがいます。
一人のレーサーは、一番人気におされたこのレースのコメントで、「ファンには悪いが、このレースだけは自分のためだけに走る」と言っていました。結果、このレーサーは敗れ、勝ったのは常日頃から「ファンのために一生懸命走る」と言っていたレーサーでした。自分のために走るか、それともファンのために走るか。この勝負を決定づけたのは根底に流れるものの違いだったような気がします。
もう一人のレーサーは一番人気になり、本人も「チャンスだ」と言っていたけれども、スタートで大幅に後手を踏んでしまい敗れました。レース後のコメントでは、「たまたまスタートを遅れたのがこのレースだったから仕方がない」と言っていました。
このレーサーは豪快なターンで人気も高かったのですが、あるインタビューで「ボートが同じなら誰にも負けない」というような風なことを言っていたのを読んだことがあります。それを聞いたある解説者が「好きなレーサーだが、どこか軽薄なところがある」と言っていました。私が思うに、ここぞの場面でスタートを遅れるレーサーは超一流どころにはいません。このレーサーは『どこかで競艇をなめている』ところがあったのではないでしょうか。大リーガーのイチローが、ＷＢＣの時に松坂に対して、「お前はどこか野球をなめているところがある」と言っていたそうです。松坂は自分に自信があったのでしょう。でも、松坂の野球人生の終わり方を見ていると、イチローの言っていたことが印象的です。スタート遅れをしたレーサーもどこか競艇をなめていたところがあったのではないでしょうか。そして、このレーサーは、その後ＳＧを獲ってはいません。どんどん萎んでいってしまった感じです。

このような感じで、勝負に生きる人間達からなにかを学んで、「俺も頑張ろう」と私は勇気をもらっているわけです。大袈裟ですけど。
私は競艇に出会えてとても幸せです。