顎関節症の疾患概念は、
「顎関節症とは顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節音、開口障害ないし顎運動異常を主要症候とする慢性疾患群の総括的診断名であり、その病態には咀嚼筋障害、関節包、靭帯障害、関節円板障害、変形性関節症などが含まれている」(1996年/顎関節学会)
ポイントを絞ると@顎関節と咀嚼筋の疼痛、A関節音(クリック音)、B開口障害(クローズドロック)となります。
今回はAの関節音(クリック音)です。
顎関節の関節音といっても色々な種類があります。
「ポキッ」とか「カクッ」というクリック音。
「ガリガリ」とか「ボキボキ」というクレピタス音。
また、なんとも表現できないような擦れる音などなど。
クリック音は、関節円板というベレー帽のようなクッションが下顎頭から外れたり、あるいは戻ったりするときに音がします。ケースとしてはこのクリック音が多いでしょう。しかし、変形してしまった関節円板と擦れて音がしたり、下顎頭の関節が変形してガリガリ音がしたりすることもあるので、関節音だけで原因が何かを全てを把握するのは難しいかと思います。
まずは、関節音があるケースで、そのときに疼痛もあるかどうかを判断基準にします。
関節音はあるが疼痛はないケースであれば、口の開閉の動作は問題ないでしょう。では、関節音があっても気にしないで放置していればいいかというとそんなこともありません。
クリック音の自然経過の調査(1)では、クリック音から開口障害(クローズドロック)に移行したものは5年間で約20%あるそうです。しかし、逆に自然にクリック音が消失したものは5年間で約25%あるそうですから、経過観察するという方法もありではないでしょうか。
また、関節音自体の煩わしさの調査(2)では、関節音患者のうち54%が関節音を煩わしいと感じており、39%はどんなことをしても音を消したいと思っていたとのことです。
実際のところ、関節音を完全になくすことは、症状により出来るケースと出来ないケースがあります。
指の関節をならす癖がある人は分かるでしょうが、「ポキッ」となる関節もあれば、ならない関節もあります。ポキポキなる関節をならないようにする方法は私には分かりません。顎関節と指関節とは構造的に異なるのですが、不安定な関節が音を発することに変わりありません。
これらのことから、『どんなことをしても音を消したい』と音に執着してしまう人は、関節音が消えなかった場合に精神的に参ってしまうこともあるので要注意です。顎関節症は、関節部分が脳に近いこともあり、精神面への影響が少なからずあります。
また、関節音がある方は見た目にも影響があります。
クリック音は大概片方の顎関節でなるものです(両方の顎関節の場合ももちろんあります)。そうすると、どうしても左右の顎関節の可動域が変わってしまうことで、顔のエラの張りが左右で変わってきてしまいます。クリック音のする側のエラがぼわっと膨張する傾向があります。
当院の施術では、関節音があり疼痛がない顎関節症の方の場合、運動療法と関節調整をおこなっています。
運動療法は、下顎頭から関節円板が外れない位置をキープするような動きの癖をつけていくエクササイズを指導していきます。
関節調整では、クリック音のしない側の顎関節を主に調整していきます。なぜなら、クリック音のする関節は動き過ぎてしまうため、その動きを代償して逆の顎関節の動きが制限されているからです。
そして、関節音があり、さらに顎関節に疼痛もある方は、まずは口腔外科に行かれたほうがいいかと思います。疼痛のコントロールを優先するほうがいいでしょうから。
文献
(1)依田哲也、秋元規子ほか:復位を伴う顎関節円板前方転位症例の自然経過に関するアンケート調査.日顎誌.8:486〜494,1996
(2)谷口亘、依田哲也ほか:無痛性顎関節患者の雑音のわずらわしさに関するアンケート調査.日顎誌.9:172〜179,1997