お客さんからの相談で、腹式呼吸がどうも苦手なので教えて欲しいという要望がありました。
折角なので、このコラムでも取り上げてみたいと思います。
腹式呼吸と言えば、お腹を膨らましたり、凹ませたりするもの。横隔膜を使うもの。という認識は大概の方はあると思います。ここに骨盤底筋群を加えて考えると、腹式呼吸への理解が深まりますし、上達への糸口になることでしょう。
体幹を茶筒のような円筒として考えてみると、上の面が横隔膜、下の面が骨盤底筋群、筒の部分が腹横筋となります。
まずは、話を分かりやすくするために腹横筋は考えずにおきます。腹式呼吸が上手に出来ている方は、横隔膜と骨盤底筋群が反対の動きをしながら使えています。つまり、横隔膜が収縮するときは骨盤底筋群は弛緩するし、骨盤底筋群が収縮するときは横隔膜は弛緩します。
腹式呼吸上達のコツは、ズバリ!骨盤底筋群を鍛えることです。この骨盤底筋群がゆるんでいると、産後に体型がガラッと変わったり、将来的には尿漏れ防止にもつながりますので、女性にとってかなり重要な部位になります。
ここで、腹横筋も加えて、腹式呼吸時に筋肉がどのように働いているのかをまとめます。
■息を吐く…骨盤底筋群が収縮/横隔膜が弛緩/腹横筋が収縮(お腹が凹む)
■息を吸う…横隔膜が収縮/骨盤底筋群が弛緩/腹横筋が弛緩(お腹が膨らむ)
骨盤底筋群は、文字通り骨盤の底にある菱形の筋肉で、その菱形のハンモック状の筋肉に8の字の筋肉が付いています。
この8の字の背側の筋肉を収縮させると肛門が締まります。腹側を収縮させると尿道が締まります。
息を吸うときに骨盤底筋群を収縮させるのですが、肛門を締めて、次に尿道を締めるという順番でおこなってください。肛門を締める感覚は誰でも分かるのですが、尿道を締める感覚は女性では難しい方もいます(男性の尿道より女性の尿道のほうが短いため)。感覚をつかむために、オシッコを途中で止める練習をするのもいいかもしれません。
<腹式呼吸の練習>
では、練習してみましょう。
①鼻から息を吸い込みつつ、②骨盤底筋群を収縮(肛門→尿道の流れ)させ、③お腹を凹ませる
※①②③を同時にやるというよりも、順番にやっていきます。スムーズにできるはずです。まずは5秒で吸ってみましょう。
④息を5秒止める(このとき、骨盤底筋群を収縮し続ける)。
⑤口から息を細く長く吐きつつ、⑥下腹部を膨らませ、⑦横隔膜をパンと張る(収縮させる)。
※①~⑦を繰り返します。最初は5秒で吸い、5秒止めて、5秒で吐くことを10回行います。これを3セット。慣れて来たら6秒・7秒・10秒と時間を長くしていきます。
ポイントは二つ。一つは、胸郭(胸部の骨格)は動かさないこと。もう一つは、お腹を膨らますときは下腹部を膨らますことです。
「息を吸ってお腹を凹ませて、息を吐いてお腹を膨らませるのは逆じゃないですか?」という質問も受けますが、この練習自体が腹式呼吸の練習のための準備運動と捉えてください。
この準備運動では、横隔膜を最大限収縮させることを一番重視しています。普段の腹式呼吸では、息を吸ってお腹を膨らませながら横隔膜を収縮させています。つまり、息を吸いながら横隔膜を使っています。しかし、筋トレでは最大限に筋肉を収縮させたいときには、息を吐きながら動かすのが基本です。効果的に横隔膜を鍛えるために、息を吐きながら横隔膜を収縮させているわけです。
この練習で横隔膜をより収縮させることが出来るようになり、かつ弛緩させることも覚えれば、腹式呼吸はそれほど難しいものではなくなるでしょう。
歌うために腹式呼吸を練習している方であれば、背筋も意識してみましょう。『お腹を膨らます』イメージから前方に負荷がかかる傾向があります。ではなく、お腹を下方に膨らませ、身体の重心を下げるイメージを持ってください。そのために、背筋を意識するのが大切になります。お腹と背中の両方で筒になっていると捉えましょう。
<腹式呼吸の実践>
上記の練習をしたのであれば簡単にできるはずです。
三三七拍子のリズムで行います。
①吸う3秒…お腹を膨らます/横隔膜を下げる
②止め3秒
③吐く7秒…お腹をヘコます/横隔膜を上げる