凝っていると感じたら注意が必要→胸鎖乳突筋
お客さんに、「○○が凝っているから強く圧して欲しい」と言われて怖い部位があります。
それは『胸鎖乳突筋』。首の前側にある筋肉です。
怖くなったのには理由があり、お客さんからキレられた経験があるからです。
その女性は50才前くらいの女性で医療関係者。
「胸鎖乳突筋が凝っているから、そこだけ強く圧して欲しい」とのリクエスト。言われたとおりに強めにほぐすのですが、「もっと強く」「もっと強く」とさらに強い刺激を要求してきます。たぶん、自律神経失調症気味なのでしょう。感覚が鈍くなっているようで、強めの刺激も感じていない様子です。
こちらとしては、これ以上強く圧すと筋肉を壊してしまうレベルは分かるので、身体を壊すような施術はしたくありません。さらに胸鎖乳突筋の奥には頸動脈や自律神経が通っているので、度を越した指圧は、それらを損傷させる可能性がないともいえません。
そういった理由から、「これ以上の強い刺激だと、筋肉を痛める怖れがありますけど．．．」とやんわり断ると、「いいから、もっと強く圧して！」と凄い剣幕でキレる。
仕方がないので恐る恐る強く圧します。しかし、胸鎖乳突筋がほぐれるどころか硬くなっていきます。実際のところ、筋肉は必要以上に強く長く圧されると、逆に硬くなります。
筋トレであっても同じ部位を永遠と続けていたらその部位を損傷することでしょう。当たり前のことです。そうならないのは、エクササイズをしつづければ酷使している部位が痛くなり、「これ以上やるとヤバイ」と感じるからです。
この方などが強い刺激でも痛いと感じないのは、自律神経失調症で感覚が鈍くなっているのもあるでしょうが、日頃から強いマッサージを受け続けているのも原因です。必要以上の強い刺激に筋肉が反発し、表面に固い層ができてしまう感じです。その結果、さらに強い刺激を欲するという悪循環。どんどん筋肉が壊れていきます。しかし、本人としては強い刺激をうけている間だけは楽に感じているのです。なぜかと言えば、強い刺激で感覚が麻痺してしまうので、よくなっていると錯覚してしまいます。実際には筋肉は壊れていく一方なのですが．．．
本人にとっては辛いからこそ強く圧されたいのでしょうが、こちらのアドバイスに耳を傾ける余裕がないと身体は悪化する一方になります。
この胸鎖乳突筋は姿勢でも緊張して固くなります。
デスクワークやパソコン作業などで頭が前方に出ていると、この胸鎖乳突筋が短縮して固まります。その結果、普段の立ったり座ったりしているときも頭が出たままの姿勢になってしまいます。今時はスマホを見るときに長時間お辞儀をしたように頭を前に傾けているので、常日頃の注意が必要です。
頭を真っ直ぐに直しても、すぐにビヨーンと戻ってしまう人は、胸鎖乳突筋が短縮していないかをチェックするといいでしょう。
私自身においては、胸鎖乳突筋が凝ることはほとんどありません。
逆に、マッサージなどで触られると痛みしか感じないので、「そこは触らないで下さい」とお願いすることもあります。たまに少し凝ったなと感じるときにはストレッチで対応しています。直接ほぐすよりは私にとっては向いている感じです。
なぜ、胸鎖乳突筋はこんなにデリケートな部位なのかと考えると、自律神経の副交感神経である迷走神経がこの筋肉の下を通っているからなのでしょう。迷走神経は内臓のほとんどに分布してコントロールしています。
胸鎖乳突筋が緊張して固くなると迷走神経の伝達が悪くなり、内臓自体の調子も悪くなっていきます。また副交感神経はリラックス状態をもたらす神経でもあるので、迷走神経の伝達の悪化で緊張がずっと続く状態に陥ることもあるでしょう。
施術の現場で感じるのは、胸鎖乳突筋がつらいと訴えている人の多くが自律神経失調症気味です。これは２パターンあり、自律神経失調症だから胸鎖乳突筋に症状が出る場合と、姿勢の問題などで胸鎖乳突筋が凝ることが原因で自律神経失調症になる場合があります。
ですので、胸鎖乳突筋をゆるめることで調子がよくならないのであれば、胸鎖乳突筋をほぐすことに気をとられるよりも、心療内科を受診するほうがいいかもしれません。