【発育症例】母親の望みは「コミュニケーションの向上」
14才男子。聴覚障害・言語障害。療育手帳A2。右脳は成長しているが左脳が遅れ、聴力理解度は1歳程度(病院診断)。MRIの画像診断によると左脳が幼稚園レベル。耳からの情報が全く入手できないため、視覚的に何度も練習を重ねて知識を習得しているが、学習面での記憶力が悪い。外部や環境の影響を受けやすく興奮状態になる。受動型(人にしてもらったことはされるがままの行動で、自発的に行動するのは難しい)。左内反尖足(左足首が内側に曲がり、左つま先が下を向く)。発語は「おかあさん」という言葉がなんとか聞き取れるくらい。
母親の望みは「コミュニケーションが伸びてくれるといい」。
施術において、ホワイトボードで指示を出すが上手くいかない。身振り手振りで話しかけるが、母親の声かけの方が反応する。聴覚は聴こえているが、脳での理解までいかないとのこと。動作を真似することは頑張ってやってくれる。
脳の覚醒度を上げるために、バルンポリンを行なう。
姿勢では、左内反尖足と左上肢屈曲パターンがみられるので、左脳の機能低下が推測される。関節の調節をして触覚と固有覚への刺激を入力していく。
言語中枢は左脳にあり、左側頭葉にある聴覚野とその周辺が機能低下していると考えられるので、左側頭葉への刺激を期待して嗅覚刺激を行う(嗅覚野は側頭葉にある)。具体的には、院に用意してある数種類のアロマオイルを左鼻から吸ってもらう。嗅覚は鋭いそうで、好みの香りもある様子。普段の生活でも気に入った食べ物などがあったら左鼻で匂いを嗅ぐ習慣をつけることを母親に推奨する。
これらの内容を毎回おこない、それに加えて他の感覚を検査しつつ、ブレインバランスを考慮して感覚刺激を入力していきました。
週一ペースで通ってもらうと、左上肢の屈曲パターンは徐々に緩和していき、私の声かけにも徐々に反応してくれるようになる(母親いわく、声に慣れてくるそうです)。
そして、一ヶ月半ほど経ってから変化がみられました。
7回目の来院時、母親から「自分のしたいことを紙に書いて持ってくるようになった」との報告がありました。「ソーセージ」「シチュー」「トマト」などの食べたい物の単語のことが多いそうですが、自分の願望をアピールすることができているわけです。
それから、彼はいつでも字が書けるように、『お絵描きボード』を携帯して持ち歩くようになります(母親が携帯するように備えさせた)。
あるとき、施術が終わったと同時に彼がダッシュをして『お絵描きボード』に向かい、字を書いて母親に見せていました。そこに書いてあったのは「まつや」。施術終わりに行きたかったのでしょう。考えてみれば、それまでは店の前まで行ったときに、動作で行きたいとアピールするしかなかったのですから、彼にとっては大きな変化に間違いないでしょう。ストレスも少し緩和されたかもしれません。自宅で母親が勉強させようとすると、「ねる」と書くそうです。
実際のところ、どのような感覚刺激が、どの脳領域に作用したのかは、推測はできるのですが特定はできません。しかし、ブレインバランスの観点から、機能低下している左脳を刺激することを続けたことがよかったのでしょう。
彼にしても、元々「あれが食べたい」「勉強したくない」という気持ちはあったはずですが、それを伝える手段は身振り手振りしかなかった。それが、紙に字を書いて伝えることができるようになったのは、今まで眠っていた神経ネットワークが起きて繋がったからだと推測されます。
それが可能になったのも、母親が根気強く、息子に字の書き取りを教えてきたからでもあります。
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